01
「シウォンさんは、ウチみたいなお店毛嫌いしてるでしょ?」
数か月前にクライアントからのお誘いを断り切れず、嫌々(とは死んでも顔には出さないが)連れてこられたお店が「Mermaid」だった。
「Mermaid」は表向きは高級ホステスだが、オーナーに気に入ってもらえればオーナーが厳選した「お気に入りの子」を紹介してくれるとあって、一部のうわさでは政財界や大物芸能人などもお忍びでやってくるのだとか。
「あ、いや・・・」
「ふーん・・・・・・」
「Mermaid」のオーナーをクライアントから紹介してもらって10秒もしないうちに、いきなりハッキリとそう断言されてしまい、珍しく俺は言葉に詰まってしまった。
クライアントの表情も一瞬陰り、これは何とかしないといけないとは思ったのだが、オーナーが俺をじっくりと「吟味」しているようだったので出方を待っていると、
「うん、いいね。あなたみたいなタイプの人キライじゃないよ。良かったら、うちの店の一押しを紹介するよ。ぜひ、貴方の手でうちの人魚を水揚げしてあげてくれよな」
「はい・・・ありがとうございます」
ニッコリと見せたオーナーの笑顔が女性のように美しくて、周囲にいた男性たちが全員メロメロになる。
確かにオーナーはとても綺麗だと思った。だが、それと同時に、相当頭がキレる人でもあるんだろうなと思ったら、少しだけ恐怖を覚えたことを今でもしっかりと覚えている。
だって俺は、芸能人でも政財界に顔が利くわけでもない。確かに「社長」という肩書ではあるが、今日はクライアントに連れてこられただけ。このお店では、いわゆる普通の人間なのだ。
そんな俺に、オーナーは一体どんな価値を見出したのだろうか。
02
「シウォンさん・・・今日はお疲れですか?」
「ん?いや、そんなことはないが・・・物足りなかったか?」
シウォンが意地悪な笑みを浮かべて、ドンヘを困らせるようなセリフを言うと、予想通り顔を真っ赤にして慌てるのが本当に可愛らしいと思う。
こんなにも純粋で、可愛らしい彼が水商売をしているだなんて、今でも俺は信じられないでいた。
「・・・ドンヘ?」
「あの、いつもシウォンさんには、俺が気持ちよくさせてもらっているので・・・っ」
ドンヘはそういうと、たどたどしい手つきでそっとシウォンの下半身に触れる。
行為が終わって、もうお互いにシャワーを浴びているのだから、何時もの流れならこのまま他愛もない話をして終わるだけなのだが。
「ドンヘ!!」
「俺、シウォンさんをちゃんと気持ちよくさせているか分からなくて・・・」
ふとドンヘの顔を見ると、今にも泣き出しそうな顔をしていた。