午前中はちょっと頭が痛いだけだった。これくらいの痛みなら、何とかなるだろうと思って、普通にダンスの練習をしていたんだ。でも、ターンを格好良く決めてやろうと勢いを付けた瞬間に、頭の中が空っぽになって、意識が遠くなっていく。
みんなが俺の名前を呼んでいるんだけれど、どうしても言葉にする事が出来なくて、ドンヘはただひたすら、心の中で必死に大丈夫だよって叫んでいた。
§
「何が大丈夫だよ!熱が39度もあんじゃねーか!」
「ふぇ・・・らいじょうぶ、らも・・・」
ドンヘが目を覚ますと、自分の部屋のベッドに寝かされていた。ヒョクに話を聞くと、もう夜の7時だって言うんだから驚きだ。しかも、何時間寝ていたんだろうって考えるだけなのに、頭が熱くなって、何も考える事が出来なくなる。
「・・・ご飯食える?」
「・・・」
とてもじゃないけれど、固形物は喉を通る気がしなかった。何かを発する事が辛くて、首をゆっくりと横に動かすと、ヒョクが心配そうに、大丈夫かよ。って言いながら、顔を覗き込んでくる。おでこを当てて、熱を測ってくれるんだけれど、あまりにも不意にそんな事をされてしまうと、別の意味で熱が上がってしまいそうになるから、正直言うとやめて欲しいと思う。
でもヒョクは、そんな事に全く気付きもしないで、熱いなぁ。なんて、呑気な事を言っている。
「いや、でも風邪薬飲まないといけないから、少しでも何か食べろって」
「・・・のど、いたい・・・かたいのやだ・・・」
「マジかよ・・・あ、そうだ。スポーツドリンク、飲む?」
「飲む・・・あっ・・!」
差し出されたペットボトルを、受け取ったつもりだったんだけれど、熱のせいで全く距離が測れず、布団の上に零してしまった。ヒョクが慌ててペットボトルを回収すると、仕方ないなと言った感じで、スポーツドリンクを口にする。
まさかとは思ったんだけれど、どうやら思考回路もスローペースになっているらしい。ヒョクが口移しで飲ましてくれるの?なんて考えている間に、ドンへの喉を冷たいスポーツドリンクが勢いよく通っていく。驚きと恥ずかしさよりも先に、はぁ。冷たくて美味しい。なんて思ってしまった。
「そんな蕩けた顔すんなよ・・・襲いたくなるだろ」
「ふぁ・・・おそ・・う?」
「・・・何でもないよ」
ヒョクが、少し照れたような表情を見せる。頭を掻きながら、そっぽを向くその仕草が変に格好良くて、ドンヘは心がドキドキしてしまった。
「ひょく・・・へへ、あのね、好き」
「・・・っ、早く薬飲んで寝てろ!」
普段は滅多に口にしない「好き」って言葉が、熱のせいもあって自然と零れる。すると、あまりにも意表を突かれたのか、ヒョクが珍しく顔を真っ赤にした。無理やり口をこじ開けられて、粉状の風邪薬を飲ませられる。もちろん、水はヒョクが口移しでくれたから、苦くて美味しくない薬も、頑張って飲む事が出来た。

次の日、ドンヘはグッスリ眠る事が出来て、快調だったけれど、代わりにヒョクが大熱を出してしまった。

 

END