「本番頑張ろうね」
「久々だから緊張するよな」
 ファンミーティング本番前の最終リハーサルを終えて、ゲームの内容や歌の立ち位置などを改めて確認する。トークの内容や時間配分も一応は頭に入れておかないと、後で時間押しすぎだって怒られるから仕方ない。
 でも、本番って始まったら何が起こるか解らないし、そんな俺達が好きでしょうがないってファンの子達は言ってるんだから、仕方ないだろ!なんて言うと、絶対にアイツは怒るんだよな。
「最初からぶち壊すつもりでやるのと、仕方なくそうなったのでは違うんだよ。解ってる?」
「いや、俺はココ最近大人しいだろ!他に注意するべきヤツは沢山いるって」
「・・・」
 ジッと無言の圧力を掛けられると、大人しくハイと言うしかない。流石我らのリーダー様は、猛獣使いの如く、華麗に俺達をまとめてみせる。
 でも何だろう。今日のイトゥクは、何処か違和感がある。心がモヤッとするというか。
「あれ、ヒチョル兄さん何処行くの?」
「ん~、散歩」
「あまりウロチョロすると、またトゥギ兄さんに怒られるよ」
「はぁい」
 本番1時間前だから、流石に外を出歩くわけにはいかない。でも、こんな気持ちのままスタートさせる訳にはいかないから、何処か1人になれる所を探して彷徨っていると、ふと個室の中に、イトゥクが1人で入っていくのが見えた。
「トゥギ・・?」
 別に普段からノゾキが趣味という訳ではない。結果として、こっそりとなってしまっただけだ。何してんの?って話しかけるタイミングを逃してしまったヒチョルは、そっと個室の中の様子をチェックする。
「上手くいきますように・・・上手くいきますように・・」
 両手を握り締めて、何度も何度も祈りを捧げるイトゥクは、さっきまでの、ビシッと皆をまとめ上げるリーダーの顔ではなかった。
 心がモヤッとしていた理由が解った。気がつくと、ヒチョルは、無意識のうちにドアを思い切り開けて、イトゥクの腕を引っ張って引き寄せるように抱き締めていた。
 イトゥクは、突然ヒチョルが部屋に入ってきて、驚きが隠せなかったのだろう。顔を真っ赤にして、石のように固まっている。
「な、な・・・っ、ヒ、ヒチョ・・っ」
「・・・トゥギ。何で何時も、お前1人で抱え込むかなぁ」
「・・っ、」
「俺達ももう、全員良い大人なんだ。ちゃんと1人1人解ってるって。だから、肩の力を抜けって」
「・・・」
「もっと・・俺を頼れよ」
 耳元でそう囁くと、そのままグイッと顔を掴んで、思い切り唇を重ねる。予想もしていなかった展開に、イトゥクはついていく事が出来ずに、ヒチョルの舌の動きに合わせるのに精一杯だ。
「ぷはっ・・・、ヒチョル・・」
 酸欠で倒れそうで、慌ててヒチョルから逃げるように両手でグッと肩を押すと、何時にもなく真剣な表情で、ジッと俺の目を見つめるヒチョルがいた。普段は滅多に見せない、彼の「男」の表情に、イトゥクは心臓がはじけそうになった。
「・・・返事は?」
「っ・・はいっ!」
 イトゥクの返事に満足したのだろう、何時ものニッコリとした笑顔を見せると、そのまま、何事も無かったかのように部屋を後にするヒチョルの背中を見て、イトゥクはその場にへたりこんでしまった。
「あれ?トゥギ兄さん、こんな所で何してんの?」
「わ!ドンへ・・な、何でもないよ」
「もしかして、体調悪いの?顔赤いけど」
「いや、大丈夫、大丈夫だから!」
 さっきまで、これから始まるファンミーティングの本番の事を考えて、心が落ち着かなかったというのに、今は悔しいくらいヒチョルの事しか考えられない。
 あんな風に強引にキスをして、抱き締めて、しかも耳元で・・・っ。
「・・・何だそれ、恋する乙女かよ」
「へ?兄さん?・・・」
 自分でボソッと呟いた台詞が、また一層に恥ずかしくて、イトゥクの顔は更に真っ赤になる。そんな表情をドンへに見られたくなくて、必死に両手で顔を覆ってしまったから、当然ドンへに大丈夫?って心配される羽目になった。
 まぁ、お陰さまで、余計な心配は吹っ飛んで、心からファンミーティングを楽しむ事が出来たんだけどね。

 

END