「37.5度、トゥギ兄さん熱だよ。寝てたほうが良いって」
「いや、これくらい何とも無いさ」
「何言ってるの?アイドルとはいえもう歳なんだから、早いうちに治しておかないと後で悪化しても知らないよ?」
「リョウク、ちょっとこっちにおいで」
熱を心配してくれるのは大変嬉しいのだが、さりげなく言ってはいけない事をサラリと言い放つリョウクを呼びつけるも、敏感にイトゥクの殺気を察した彼は、あっとか何とか言いながら、まるで小リスのように小走りに走り去ってしまった。
昔だったらこれくらいの熱なんて、気合いでどうとでもなったというのに、認めたくは無いけれども歳のせいなのか、身体がだるくて仕方ない。イトゥクは仕方なく、可愛げのない弟の言うことに従って、大人しく部屋で寝ることにした。

「おい、熱があるんだって?」
「・・・ヒチョル」
何時間寝ていたのか解らないけれど、久し振りに熟睡したらしく頭がぼんやりとする。ヒチョルに話し掛けられても、直ぐに反応することが出来ずにイトゥクは目を開けたまま天井をずっと眺めていた。
「・・・本当だ、まだちょっと高いな」
ヒチョルの気配がものすごく近付いたと思ったら、おでこがひんやりとする。彼の額が冷たいと感じるのだから、確かに熱があるのだろう。って、今俺は彼に熱を測られたのか。それすらも自覚するのに時間が掛かるなんて、もしかして寝たことで症状が悪化しているんじゃないか?
「ヒチョル・・・あの、さっ・・・んっ」
「水分、ちゃんと摂らないと脱水症状起こすぞ」
俺に近付いたらうつすかもしれないよ。って言おうとしたところで、それよりも先にヒチョルが手に持っていたペットボトルのスポーツ飲料を自分の口に含み、そのまま口移しでイトゥクの口に強引に流し込む。あまりの突然の出来事にゴクリと飲み込んでしまった。
もうちょっと飲む?と聞かれて、慌てて首を横に振ると、ヒチョルはそっけなくあ、そう。と言ってペットボトルの蓋を閉める。そのまま流れるようにサイドテーブルに置く彼の一連の動作がものすごく早くて、イトゥクは展開についていくことが出来ない。
っていうか、いまさらながらヒチョルにキスをされたことに対して、ものすごく恥ずかしくて顔が真っ赤になってしまった。もともと熱があるみたいだから、ヒチョルにはバレてはいないだろうけれど。
「じゃ、ケツ出して」
「う・・・ん?・・・・・・何で?」
「熱、早く下げたいだろ?」
「ごめん、言っている意味が良く解らない・・・って、何それ」
「座薬だよ座薬、ほら、早くしろって」
当然の流れのようにケツを出せと言われても、いくら熱があってもホイホイと指示に従うわけが無いだろう。イトゥクが慌てて起き上がると、ヒチョルが持っている薬を目の前に差し出してくれた。
「座薬」確かにそれはお尻に入れる薬だ。ヒチョルがケツと言ったのは解ったけれども、熱を下げる薬なんて別に飲み薬でも良いじゃないかって思う。
「何で座薬なのさ」
「飲み薬よりも即効性があるって言われたから」
「・・・解った、じゃあ自分で入れるからっ、出て行けっ、わあっ」
「じたばたすんなって、直ぐに終わるから」
「イヤに決まってるだろ!何でこの歳になって、座薬を入れてもらわないといけないんだよ!」
三十も後半になろうとしている2人が、バカみたいにベッドの上でバタバタともがいている。しかし、今日はイトゥクのほうが熱のせいで力負けしてしまい、あっという間にヒチョルに組み伏せられてしまった。
身体が熱いからとかいって、寝る前に下着一枚になってしまったのも運が悪く、ヒチョルにあっという間に下着をめくられてしまい、可愛らしいお尻を晒してしまう。
「わ、もう本当にやめろって!」
「直ぐに終わるから、大人しくしてろ!」
「う・・・」
こうなってしまうともうダメだ。きっと彼は座薬を入れ終わるまでは何が何でも解放してくれないだろう。諦めたイトゥクは抵抗をやめて、さっさと入れてもらうことにした。と、言うよりもこんな姿を万が一にも他のメンバーに見られでもしたら、俺はもうこの宿舎で生きていくことが出来ない。絶対に。
「解ったから・・・は、早くして」
「解ってるって、ほら、入れるぞ」
「う・・・あ・・・んっ・・・」
「・・・・・・」
別に変な声なんて出すつもりは無かったのに、ヒチョルの指使いが変に優しすぎてモゾモゾしたというか、薬がニュルリと入ってくる感覚がもどかしかったというか。イトゥクが否定の言葉を一生懸命考えていると、お尻に変な異物感を感じて、驚いたイトゥクは思わずわっと叫んでしまった。
「な、なにっ、ヤダ、抜けって」
「何だよ・・・もう可愛い声聞かせてくれないの?」
「可愛いって・・・バカだろ!熱あるんだから変なことするな!」
「ハイハイ」
意外とあっけない、と言ってしまったら俺が期待しているみたいでイヤだけれど、ヒチョルは無理強いをすることはなく、さっと指を引き抜く。
「な、何だよ・・・」
「水分、ちゃんと摂って寝てろよ・・・じゃあな」
「あ、う・・・うん」

バタンと閉めるドアの音が大きく響くから、部屋に1人残された俺は一層さびしい気持ちに駆られる。

「何だよ・・・別にあのまま・・・」

なんて考えてしまったのは、微熱のせいだからだ。きっとそうだ、間違いない。

 

END