運命の人

ハンギョン×ヒチョル

 

レッスンが終わって、フラフラと独りで歩いていると、何故か人気のない道で、ヒョロリとした男が一人で歩いていた。何だろう、アイツはバカなのだろうか。あんな無防備だと、イカツイお兄さんたちにあっという間に囲まれて、身ぐるみ剥がされてしまうだろ。そう思ったヒチョルは、無意識のうちに男に声を掛けていた。

「おい、お前‥‥‥っ」

ヒチョルの声に反応して、男が振り返る。端正な顔立ちで、不覚にもドキッとしてしまった。だから何かつい、このまま注意だけをして別れるのが惜しくなってしまったというか、よく解らないまま、勢いで誘ってしまっていたんだ。いや、でもこれってかなり怪しまれてもおかしくないよな。暇ならさ、一緒に遊ばない?なんて、まさに俺がコイツをターゲットにしているとか思われたら、それはそれで嫌なんだけれど。
ヒチョルがどう言い訳をして、自分は怪しくないっていうのを説明しようか悩んでいると、男はずっとヒチョルの事をまじまじと見ていたらしく、目が合ってしまった。その瞬間、ものすごい笑顔で、「片言」の韓国語で解った。遊ぼう。って答えてくれたんだ。
男はどうやら韓国人ではなかったらしい。そして、行きたいところがあったんだけれど、道に迷っていたらしく、俺が話し掛けてくれて良かったって言ってくれた。まぁ取り敢えず、結果オーライだ。不審者扱いされてないのならそれで良い。なんて、軽い気持ちだったんだけれど、何処に遊びに行くっていう時間でも無くて、俺たちは何となく近くのホテルに入ってしまった。

「お前、名前は?‥‥‥あ、解る?んと、Name」

部屋に入って、ヒチョルは男の名前を聞いていなかった事を思い出す。相手が韓国人じゃないと解ると、なんて聞いたら良いのか解らなくて、取り敢えず片言だけれど英語も交えて聞いてみたら、軽く笑われてしまった。

「‥‥‥ハンギョン、話すのは苦手だけど、ゆっくり話してくれれば聞き取る事は出来る。えっと、お前の名前は?」

「あっそ‥‥‥俺は、ヒチョル」

「ヒチョル‥‥‥」

じっと見つめられると、キレイな目に射貫かれてしまい、まるで女の子のように頬が赤くなってしまう。いくら此処がホテルだとはいえ、最後までヤルつもりは無い。でも、こんな格好良い男に流されたら、据え膳だろうな、とか思っていると、不意に肩を両手で掴まれて、そのままベットに押し倒されてしまった。え、いや、まさか、嘘だろ?ヒチョルがじっとハンギョンの目を見つめると、ニッコリと笑顔を見せて、ヒチョルの耳元で囁いた。

「‥‥‥チガウ?ココッテ、コウイウコト、スル場所デショ?」

「なっ‥‥‥!!」

いやいや、さっきまで普通に話してたのに、何で急に片言になるんだよ!!って普段だったら、そんなツッコミやすいようなボケをかまされようものなら、直ぐにでも殴ってやるのに。今日に関しては悔しい事に、どうやら俺の本能はその先の行為を期待しているようで、何も言い返すことが出来なかった。不意に目が合うと、そのままハンギョンに優しく唇を奪われてしまう。

「ふ‥‥‥あ、ん‥‥っ」

ヒチョルの動きに合わせて、優しく舌を絡ませてくるハンギョンは、悔しいけれど慣れているとしか思えない。ちょっと数十秒間唇を重ねただけなのに、なんだか意識がトロンとしてきて、頭の中がおかしくなってしまいそうだ。

「突然こんな事されて、イヤじゃない?」

「イヤ‥‥‥だったら、そもそも声掛けてねぇよ」

「へぇ、じゃあ、俺とセックスしたかったって事?」

「‥‥‥っ」

セックスなんてストレートに耳元で囁かれると、何も言い返す事が出来なくなる。なんだよ、これじゃあ始終ハンギョンのペースじゃないか。それでもいいけど、何だか悔しい。ジッと見つめられるのが耐えられなくて、何となく目線をそらすと、怒らせたって思わせてしまったようだ。

「ごめん‥‥‥怒らないで。大丈夫、冗談だから。ほら、もう遅いし寝ようよ」

「‥‥‥は?!」

「お願いヒチョル、ぬくもりだけでもいいから、感じさせて‥‥‥」

韓国には心を許せる人が居ないから。なんて言われると、何だか切なくなってしまった。もしかしなくても、ハンギョンは韓国に来たばかりで、まだ右も左も解らないのだろう。抱き枕の様にギュって抱き締められたまま、気が付くとハンギョンの寝息が聞こえてくる。あれ?まさか、本当に寝たのだろうか?そっとハンギョンを見ると、目を閉じたままビクともしない。
結局、ハンギョンは本当に直ぐに寝てしまい、言葉通り俺には一切手を出さなかった。何これ、もしかしてそういうプレイなのか?俺から誘ってくるのを待っているとか?とか色々考えたんだけれど、結局ヒチョルも、どうしたら良いのか解らずに、そうこうしているうちに強烈な眠気に誘われて、そのまま落ちてしまう。

朝起きると、ハンギョンはもう居なかった。ものすごく汚い字で、ありがとう。続きは今度会えたらね。ってメモが残っていて、まるで幽霊にでも会ったんじゃないだろうかという気分にさせる。こんなにもモヤモヤして、切なくて涙が溢れてきたのは久しぶりだった。

「うわっ、何だよヒチョル兄さん、機嫌悪いのはいいけど、俺に当たらないでくれる?」

「るっさいなヒョク、邪魔、退け、俺の前に立つな。バカ」

年下の癖に、俺に意見をするヒョクにムカついて、わざとらしくヒチョルが、あ、でもドンヘだけは別ね。って言いながら、ドンヘをぎゅう。って抱き締めると、解りやすくヒョクが反応をするから面白い。でも違う、今俺が求めているぬくもりや香りはドンヘじゃない。いや、ドンへのニオイも甘くて好きだけどさ。

「ヒチョル兄さん、元気ない?」

「ん‥‥‥そんな事ないよ」

無意識のうちに、ドンへの香りを抱き締めながら嗅いでいると、今日は妙に勘が良いのか、ドンヘが心配そうな表情で俺の顔色を窺ってくる。
そんな無防備な顔して、俺のキスの圏内に入ってくるってことは、このままキスをしても良いという事だよな。今日はヒョクにお仕置きされるぞ。なんて思いながら、ドンへの顔を両手でがしっと掴むと、勢いよく練習室のドアが開いて、メンバーが注目をする。

「‥‥‥あ!!」

「ふえっ?!」

「あ、ヒチョルったら、またドンヘで遊んでる。丁度良かった、皆居るみたいだね」

「コンニチハ」

ドンヘにまさにキスをしようと、唇を近付けた瞬間に、イトゥクとハンギョンが入ってきて、ヒチョルは文字通り固まってしまった。いや、イトゥクはいいとして、何でお前まで入ってくるんだよ。イトゥクとどんな関係なんだよって頭の中で色々と混乱していると、勘の良いソンミンが笑顔で挨拶を交わしながらハンギョンに近付く。

「こんにちは。ヒョン、もしかしてこの人が、この間マネージャーが言ってた、新しく入る中国人のメンバー?」

「うん、そう。本当は昨日紹介する予定だったんだけど、道に迷っちゃってたらしくて」

「ハンギョンです。よろしくお願いします‥‥‥えっと」

「あ、ソンミンです。よろしくね」

ハンギョンがニヤニヤとした笑みを浮かべながら、こっちの様子を窺っている。俺の名前を聞いてジッと顔を見つめていた事も、メモに今度会えたらって意味深な言葉を残したのも、ハンギョンは俺が仲間だって気付いてたんだ。そう言われてみれば、確かにマネージャーに新しいメンバーが入るって話を聞いていたかもしれない。普段あまり話を聞かないせいで、とんだ赤っ恥じゃないか。

「ヒチョル、また会えたね」

「‥‥‥っ」

ハンギョンが俺の名前をハッキリと呼んで、笑顔で手を振ってくるから、一斉にメンバーがヒチョルを見つめる。え、何で?先に会ってたの?何で知ってるの?って口に出さなくても、皆して解りやすい顔をしながら俺を見るなよって思う。ヒチョルが珍しく皆に凝視されて、何て答えたら良いのか解らずに戸惑っていると、ハンギョンがすかさずフォローに入って、昨日の話をしてくれた。あ、もちろんホテルの件は省いて。
そしてそっと耳元で、今日は我慢しなくても良いかな?って囁かれると、ヒチョルの心がドキンと大きく跳ねる。OKの代わりに軽く腰をグーで殴ると、優しい笑顔で微笑んでくれるから、ますます鼓動が跳ねてしまうんだ。

 

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※メンバーの入隊時期がおかしくなっている辺りはスルーして下さい。

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