真実。

「あ!忘れてた。ちょっと待ってろ」

何時も会社でそっけないヒョクに心配したとか言われて、ものすごく甘い雰囲気になっていたのに、突然思い出したかのように大きな声でドンヘを制するから、ドンへはビクッと身じろいでしまう。野生動物のように慌てて辺りをキョロキョロとし始めると、ドンへが着ていたスーツを見つけて内ポケットを探り始めた。内ポケットの中から何か機械を取り出したかと思うと、ヒョクはその機械のスイッチらしきものを押して、自分のズボンのポケットへとそそくさと隠すようにしまうので、思わずそれは何?って聞く。すると、一瞬気まずそうな表情を見せたヒョクが、ため息混じりに話し始めた。

「‥‥‥盗聴と録音する機械だよ。」

「へぇ、そうなんだ‥‥‥って、えええっ、と、盗聴?!」

「今日の出来事は、全部ヒチョル先輩やイトゥク先輩たちに筒抜けで録音されてたんだ。いや、先輩達も最初から全部事情を伝えておいた方が良いじゃないかって言ってたんだけど、お前、そういうの先に知っちゃうと、解りやすく顔に出るタイプだろ?」

「うっ‥‥‥」

確かに、事前にヒチョル先輩とイトゥク先輩から、今日の出来事は全部録音するから、上手くやるんだよ!とか明るい笑顔で背中を叩かれたら、かえって意識しちゃって相手にバレてしまう可能性が高いだろう。でも、一体どうして盗聴や録音をする必要があったのだろうか。俺一人を守るためにしては、かなり厳重じゃないか?と首をかしげていると、1つの可能性が浮かび上がった。
それは、担当者の度を越した趣味。睡眠薬やら利尿剤やら色んな薬を盛って、あんなプレイを強要するかなり悪質な趣味だ。ドンヘは彼に無理やり拘束されて、身体を好き放題触られた事を思い出すと、急に恐怖が蘇ってきて、思わず身体が震えてしまう。ドンヘの不安な表情を見たヒョクが、優しく頭をコツンと叩いた。そして少し恥ずかしそうにしながら、もう大丈夫だから。って囁いてくれる。そんな彼の行動を見ていたら、何だか一気に不安な気持ちが和らいで、安心する事が出来た。

「ヒョクはこの機械で全て話を聞いていて、俺のピンチに駆けつけてくれたんだよね‥‥‥ありがとう」

「‥‥‥あ、ああ」

盗撮じゃなくて盗聴だから、担当者の口からドンヘに何をしたのかというのを、ある程度ハッキリと言わせてからじゃないと証拠が固められない。だから本当は、ドンへが監禁された時点で助けてあげたかったのに、なかなか出来ないもどかしさがあった。話を聞きながらイライラしていて、ヒョクも悔しかったんだ。

「実は、今回のプロジェクトで発覚したミス、お前が原因じゃないんだ」

「へ?そ、そうなの?!」

「ウチには優秀なプログラマーがいるだろ?確かにお前はミスが多いけど、ちょっと今回のは何かがおかしいってソイツが言うから、細かく調べてみたら、ドンへは全く関係無かったんだ」

優秀なプログラマーというのは、間違いなくキュヒョンの事だろう。年下の毒舌後輩で、仕事とプライベートのオンオフがしっかりしているイマドキの若い男子だ。かなりのゲーム好きで、平日は殆ど寝ていないって言ってて、何時も眠そうにしている割には、仕事はきっちりとミスなくこなすんだよね。俺なんて毎日しっかりと寝ているのに、ミスが多くて怒られているのにさ。ヒョクが言うには、システムがおかしくなるようなプログラミングをした人を、深く掘り下げていったら、あの担当者が浮上してきたらしい。そして担当者の近辺を調べていくと、彼が担当している案件では、今回みたいに頻繁にシステムの不具合が起こっていたんだ。だから、ヒチョル先輩やイトゥク先輩たちが怪しいって思ったんだって。

「お前みたいな奴を見つけては、自分の性欲を満たすために、勝手にシステムをいじってミスを起こして、無理やり2人になれるような状況を作っていたんだ」

「‥‥‥酷い」

こんな細かいプログラミングの解りにくい所で、あたかも自然に見せるようなミスを作るなんて、オツムが天然なドンヘ先輩には絶対に出来ない芸当です。良かったですね。疑われる余地なしですよ。なんてキュヒョンが言っていたという事は、ドンヘには黙っておこう。ヒョクは軽く咳ばらいをすると、ちらりとドンへを見る。すると、ドンへの身体が震えていて、顔も少し紅潮している。あんなことがあった直後に、いろんな話をしてしまったから、よけい不安にさせてしまったかなと思い、大丈夫か?と肩を叩くと、過剰に反応をされてしまい、ヒョクは少し焦ってしまった。
ヒョクに軽く肩を押されてしまっただけだと言うのに、ドンヘはその場に立っていられる事が出来ず、ベットの上にへたり込んでしまった。急に身体が熱くなって、ヒョクに触れられた瞬間、下半身が熱を持ってウズウズしてきたなんて、俺の身体は一体どうしちゃったんだろう。ドンヘの呼吸が荒くて、尋常じゃないかもしれないと感じたヒョクは、担当者が言っていた言葉を思い出す。

「あ、もしかして‥‥‥薬か?!」

「く、くす‥‥‥り?」

「嗚呼、睡眠薬と利尿剤、それに何かもう一つ飲ませたみたいなこと言ってただろ?」

「‥‥‥っ」

担当者の言葉を思い出すと、確かに何だか気持ちよくなれる薬みたいなのを飲ませたみたいなことを言っていた気がする。ヒョクの心配そうな姿を見ていたら、何故か俺は逆に気持ちが高まってきてしまう。下半身がどんどんと熱を持って、身体の震えが止まらない。ヒョクにこんな姿見られたくないのに、瞳を潤ませながら、ドンヘは無意識のうちに助けを求めるような視線をヒョクにおくる。すると、仕方ないといった感じで右手で口元を抑えながらもヒョクが口を開いた。

「この部屋‥‥‥実はアイツが1泊とってるんだ。だから、嫌かもしれないけれど、安全なのは俺が確認しているからゆっくりと休め。色々あって疲れてるだろ?明日は休日だし‥‥‥じゃあ、俺は帰るから」

「ヒョク‥‥‥待って!!」

ヒョクが帰っちゃう。そう思ったら、反射的にヒョクの腕を掴んでいた。そして後ろから思い切り抱き締めて、一緒に居てって泣きながらヒョクに訴える。これが単に不安からくる衝動なのか、それとも薬のせいで積極的になっているのかは解らない。でも、ヒョクに傍にいて欲しいっていう気持ちだけは本心だった。だって俺は、ヒョクの事が‥‥‥

 

Next

Back

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です