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「・・・はーい?」

「やっと捕まった!!ねぇ、今何処に居るの?」
「何処だって良いだろ、別に・・・・・・」
「別にって、とにかく迎えに行くから動くなよ!!って聞いてるの?」
 せっかくブラブラと散歩を楽しんでいる所だというのに、おせっかいな「彼」からの着信のせいで全てが台無しだ。別に俺が何処に居たって構わないだろ、お前の彼女でも何でも無いんだし。
 自由気ままな猫は誰かに干渉されるのが大嫌い。だから、電話をしている途中でもちょっとでもイヤだなと感じたらお構い無しに通話を切ってしまう。まぁ、相手もそんな彼の性格を熟知しているから、俺がギブアップするまで何度でも電話を掛け続けるんだけれど。

「ホント・・・アイツも俺も面倒だなぁ」

 大抵の男は数回同じような目に遭えば、コイツ面倒くさい奴だなって言って去っていくのに、電話の相手「イトゥク」は、何度でも何度でも笑顔で見つけた!って言って俺の所にちゃんと来てくれるんだ。こんな面倒な奴初めてで、嬉しいんだけれどその気持ちをどうやって伝えたら良いのか解らなくて、結果おんなじことの繰り返しで。
 何時かはイトゥクも、今までの男と同じように最後は面倒だなって言って去っていくんだろうなって思ったら、不意に怒りがこみ上げてきた。
 その場で思い切り携帯電話を叩きつけたくなるような衝動を必死で抑えながら、駅前の大きなクリスマスツリーの前に立つと、大きなため息がこぼれる。だってもうすぐクリスマス、恋人達のハッピーなお祭り、俺には全く関係の無いムカつくイベントが控えているんだから。

 夜になると街中が華やかなイルミネーションに包まれて、幸せムード一色になるのが耐えられない。

「・・・・・・1人?」

 突然背後から声を掛けられて、驚いて慌てて振り返ると長身のイケメンがこっちを見つめながらクスクスと笑っている。一体何時から俺の事を見ていたのだろうか。まさに一部始終を見ていましたといった感じで、声を掛けるタイミングを計っていた様だ。 
 ものすごく不愉快だ。という視線を無言のまま送ると、俺が無視しないで何かしらのリアクションを返してくれたことが嬉しかったのだろうか、予想に反してニッコリと笑顔を返してくれるもんだから、不覚にもその笑顔が素敵だと思ってしまったヒチョルは思わず頬を赤くしてしまった。

「・・・ごめんね、大きな声で彼氏と喧嘩してたようだから、1人なのかなって思って」

「・・・・・・彼氏、居るって解ってて声掛けんのかよ」
「だってキミ、俺の超タイプだし」
「タ・・・」
「やり取りを見てて素直にラッキーだなって思ったんだけど、ダメ?」
 どうやらコイツは、自分が「イケメン」であるという事を十分に理解しているようだ。自分に自信がなければこんな声の掛け方なんてする訳がない。彼と喧嘩をしているって事は今日は1人だろ?良かったら俺とセックスしない?なんて、普通の男だったら絶対に言えるわけが無いからな。あ、そこまでは言ってないか。
 こんな危険な男、普通だったら無視をして逃げるのが当然だろう。しかし、生憎俺もお前と同じで普通じゃない。そして、俺も自分の事をかなり「イケてる」と自覚しているタイプだから、ダメだと解っていてもこの同じニオイのするオトコに興味を持ってしまった。嗚呼、同じ穴のナントカってヤツだろうか。
 真っ直ぐに彼の整った顔を見つめていると、ズボンに突っ込んでいた携帯電話がまた着信を鳴らす。バイブの振動音が相手にも伝わったのだろうか、それとも俺の一瞬の表情を見て察したのだろうか。どちらか解らないけれども、俺が着信を無視しようと決めた瞬間に、思い切りズボンに手を突っ込まれてしまった。

 不意をつかれて驚いた一瞬のスキをついて、目の前のオトコは慣れた手付きでヒチョルから携帯電話を奪い取る。

「・・・あ!!お前、何すんだよ」
「何って、うざったいでしょ?」
 そしてまるで自分の携帯電話かのように悪びれることもなく着信を切ると、そのままボタンを長押しして電源も落とされてしまった。そりゃあヤツからの電話を無視するのなら、電源を落としてしまったほうが早いけれども。

「・・・・・・それとも、電源が入ってないと不安なの?」

「・・・・・・っ、誰が」
「良かった、じゃあ行こうか」
「わあっ・・・!!」
 こっちから繋がりを切ったら、アイツはもう諦めて絶対に俺の事なんて心配しなくなる。そんな俺の気持ちをまるで見透かしたような台詞を吐くもんだから、思わずカッとなってしまった。ダメだ、完全に相手のペース、俺が超苦手なタイプだ。
 さっきまでは好奇心のほうが勝っていて、コイツとどうなっても良いかななんて思っていたけれど、完全にそんな気なんて無くなってしまった。どうやってこの場から逃げようかと思っていたところで、思い切り手を捕まれてしまい、振りほどくことも出来ないくらいの力を見せつけられたヒチョルはもう諦めるしかなかった。
「・・・名前は?」
「っ・・・・・・ヒチョル」
「俺はハンギョン・・・・・・行こうか」
 ニッコリと見せる紳士的なスマイルの奥に、何処かあどけない可愛さが見える。しかも今気付いたけれんだけれども、この男はどうやら韓国人ではないらしい。言葉がところどころカタコトだ。
 いくら力を込められても、俺が大声を出して周りに助けを求めれば逃げ出すのは簡単なのかもしれない。でも、携帯電話を取られたままだから仕方なく付き合ってやることにしてやるよ。

 コイツの瞳の奥に俺と似たような孤独の目を感じたから同情した訳じゃない。絶対に。

 

 

 

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