Smoker-01

「・・・そろそろ健康に気を遣えって」

「ん・・・解ってはいるんだけどね」
 何時ものように愛し合ったあと、ベッドで横になりながら様になっているとでも思っているのだろうか、タバコに火をつけて余韻に浸っているイトゥクに嫌味を吐いたヒチョルは、そのまま汗を洗い流すためにシャワールームへと向かった。
 そりゃあ俺だって昔は吸っていたから、なかなか解っていても止められない辛さっていうのは吸わないヤツよりも理解はあるつもりだ。でも、ここ最近の彼は仕事のストレスが相当溜まっているのか、日に日に本数が増えていってるから不安なんだ。
「っていうかお前、火事には気を付けろ・・・って、バカ!!」
 ヒチョルが不意に、言い忘れたって言いながらベッドルームに顔をのぞかせると、うとうとしながら半分意識が何処かにイッてしまっているイトゥクが見えた。しかもよく目を凝らしてみると、灰皿に乗っているタバコには火が付いていてジジジ・・・と時限爆弾のような低い音を立てているじゃないか。

「流石に・・・まだこの歳でお前と心中する気なんてねぇよ」

 慌ててタバコの火を消しながら、呆れた表情でヒチョルが呟く。つけたばかりのタバコ、イトゥクが吸っていたタバコ、何となく深い意味なんて無いんだけれど、ヒチョルがそっとくわえてみると、イトゥクの甘い香りがしてまるで麻薬みたいにやられそうになる。
「・・・やべ」
 流石に昔吸っていただけあって、我ながら持ち方は様になっているんじゃないか?これだったら、タバコを吸う役をもらっても、違和感なく演じる事が出来そうだな。
 ヒチョルは一度は消したタバコに、もう一度火をつけてタバコを味わってみる。嗚呼、こんな感じだったっけ。もうちょっと煙たくて不快になるかなって思ったけれど、全然違和感なく受け入れてるじゃん。本当に何年振りだろうか、タバコなんて歯を汚すし、健康にもよくないし、吸っても良いことなんて何一つとして無いと言うのに。

「あ~ダメだ、やっぱ不味いな・・・」

 イトゥクの香りがしたのは一瞬だけで、火を付けてみればやっぱりタバコはタバコだった。あ、しまったイトゥク起きてたかな?俺のこんな行動見られてでもしたら、何を言われるか解ったもんじゃない。
 恐る恐るイトゥクの顔を見ると、瞼を閉じている彼は眠っていても整った顔をしていた。ヒチョルはふぅ、と安堵のため息をついて部屋の時計をチェックする。だって、ここはどっちの家でもなくホテルだし、確かイトゥクは今日入りが早いって言ってなかったっけ。
「おい、疲れてるのは解ってるけどさ、そろそろ準備・・・」
 何時もはぐったりして仕事なんて休んでやる!とか叫んでいるのは俺だから、こういうシチュエーションはなかなかお目にかかる事はない。気分は新妻?みたいに耳元で優しく、甘えるような声でイトゥクの名前を何度か呼ぶんだけれど、うんともすんとも反応をしないので、流石に不安がよぎった。

「トゥギ?・・・・・・おい、起きろよ!!」

 イトゥクは、意識を失っていた。

 

 

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