油断。

そんな騒動があった後、ドンへはくじいた足をテーピングしてもらい、何とか痛みを抑えて、今日の分の撮影を終える事が出来た。ヒョクにはメールで、足をくじいたから、病院で診てもらってから帰るよ。と、伝えると、今日は俺も遅くなる。一緒に病院に行けなくてゴメン。と、直ぐに連絡が来た。
寂しくないと言ったら嘘ではないが、返信が早いだけでも、前に比べれば俺に気を遣ってくれているんだ。だから、病院まで付き添ってくれなんて、絶対に言える訳がない。しかも怪我の原因が、昨日の事を考えていたせいで、注意力散漫になっていただなんて、バレたら怒られる。絶対。
「・・・よし、じゃあ行こうかな」
「良かったら、病院まで送ってあげるよ」
「へ?!いやいや、そこまでしてもらわなくても良いですよ!」
たまたま帰るタイミングが一緒だったジニョクさんが、気を遣ってドンへに嬉しい言葉をかけてくれた。当然歩いてなんて病院に行けるわけが無いから、丁度今、タクシーを呼ぼうと思っていたところだった。
「病院は通り道だから、今からタクシーを呼ぶよりも、早く着く・・・それに、皆、ドンへの足を心配しているんだ」
「うう・・・本当に、何から何まですみません・・・」
ジニョクさんの笑顔は、Noとは言えない圧がある。なんて、人の親切を簡単に無下には出来るわけがない。ドンへは、タクシーを呼ぶのをやめて、ジニョクさんの言葉に甘える事にした。駐車場まで、ドンへの負担にならないペースで歩いてくれて、車に乗る際には、しっかりとエスコートをしてくれる。まさに完璧な人だよな、なんてことを考える。

ジニョクさんに対して、深い感情なんて抱いていないからこそ、油断をしていたんだ。

 

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