ヒョクの優しさ。

「・・・じゃあ、俺帰るから」
「待って!」
病院の中でヘタに喧嘩をするのも良くないと思い、出てしばらく歩いたあと、さりげなくヒョクが別れを切り出すと、彼女が引き止めてきた。これは良くないパターンだろうなと思ったら、やっぱり彼女が先日の出来事を謝ってくる。
付き合って日も浅い状態での別れだし、些細な喧嘩で別れるなんて、本当に想い合っているカップルならありえないだろう。想い合っていれば、の話だが。ここはもう、中途半端に優しさを見せるよりも、思い切り突き放して、二度と関係を持とうなどとは思わせないほうが、彼女のためだと思った。左腕よりも酷い怪我を負う羽目になるかもしれないけれど。
「ゴメン・・・俺さ、もう新しい彼女が居るんだ」
「新・・・しい?」
「だから、もうお前とやり直すつもりなんて、一切無いから・・・じゃあな」
「そう・・・解った・・わ」
彼女がそういった瞬間、目の前で寄り掛かるようにして倒れこんできた。ものすごく具合が悪そうで、息遣いも荒くなっている。ヒョクが抱き抱えた状態で、大丈夫か?と聞くと、身体を小刻みに震わせながら、フルフルと首を横に振る。
「ここ最近、ちょっと具合が悪くて・・・横になれば治ると思う・・・」
こんな所で置き去りにして、流石に1人だけ帰る訳にはいかないし、横になれば、と言っても、辺りはもう暗くなろうとしている。仕方ないなと思ったヒョクは、彼女を自宅の前まで送ってあげる事にした。

 

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