ヴァンパイア。

俺とドンヘは、人間の精気を定期的に摂取しないと生き続ける事が出来ない。父親がヴァンパイアで母親が人間のハーフだ。ヴァンパイアと言えば聞こえは良いかもしれないが、化け物であることに変わりはない。だからいつも、人目を避けるようにして、ひっそりと生きてきた。
俺は母親の血のほうが濃くて、数か月に一度精気を摂取すれば、日常生活も普通におくる事が出来る。でもドンへは、見た目とは裏腹に父親の血を濃く受け継いでしまったが為に、一週間に一度は精気を摂取しないと死んでしまうんだ。
でも最近は、一週間に一度でも足りないっていう時が、数か月に一度あって、イェソンはもう、どうしてあげたら良いのか解らなくなっていた。

一層の事、ドンへを殺したほうが、ドンへにとって一番の幸せなんじゃないか‥‥‥

「イェソン、明かりくらいつけろよ。ただでさえお前は暗いんだからさ‥‥‥」

「‥‥‥ヒチョル?」

何時もの意地悪な憎まれ口も、ちょっと一緒に居れば、直ぐに慣れる。暗い。何を言っているんだろう、暗いのはヒチョルの方じゃないか。イェソンが何も言わないで、じっとヒチョルを見つめる。ヒチョルは天邪鬼なところがあるから、下手に問い詰めるよりも、こうした方が良いんだ。
そもそも俺が自分から、どうした?って話を聞くタイプではないというのは、ヒチョルが一番理解している筈。それなのにも関わらず、俺に話しかけているという事は、誰でもいいから、話を聞いてほしいって事だし。

「あの‥‥‥さ」

しばらくすると、イェソンの読み通り、ヒチョルが独り言のように、小さい声で話し始めた。

「アイツ‥‥‥部屋で自殺してた」

決めた!お前、ウチのボーカルになれ!!「アイツ」は切る!!勢いよくそう言われて、俺はヒチョルのバンドのボーカルになった。アイツというのは、俺の前にボーカルだった奴の事で間違い無いだろう。

イェソンの心が一気に締め付けられていく。

「急に連絡が取れなくなって、俺もつい、カッとなって‥‥‥だから俺、一方的にもう切るってメールしちゃって‥‥‥ちゃんとアイツの言い分、聞いてやれば良かった」

肩を震わせて、泣くのを必死に我慢しているヒチョルの姿なんて初めて見る。俺のせいだって思い詰めて、独りで抱え込むのが怖くなってしまったんだろう。でもヒチョルは、何があったとしても、絶対にイトゥクには心配かけたくないから、彼の前だと強がってしまう。
だから、イトゥクに何か言われる前に、いつも通りのテンションで強がれるだけの余裕が欲しい。だから俺に、心の内を明かしたんだろう。

「‥‥‥今、この場には俺しかいない。別に泣いても、誰にも言わない」

「当たり、前だろ‥‥‥誰かに言ったら‥‥‥っ、殴って、やる」

ヒチョルの腕を思い切り引っ張って抱き締める。そして、いつもドンへにしてあげるように、優しく頭をポンポンと叩くと、ヒチョルもまさかイェソンにそこまでされるとは思っていなかったのだろう。
素直に顔を真っ赤にして、驚きの表情を一瞬だけ見せるんだけれど、直ぐに隠すようにして、イェソンの胸の中に顔をうずめる。小さい声で精一杯強がったあと、ヒチョルは声を殺しながら思い切り泣いた。

イェソンは何も言わずに、ヒチョルの頭をずっと撫で続ける。嗚呼、こんなにも苦しい思いをするくらいなら、最初から姿形残さないくらい精気を吸っておけば良かった。

 

「‥‥‥だって悪いのは、アイツ、だ」

 

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