運命に導かれて。

ねぇママ、夕方車にひかれちゃった犬、大丈夫かなぁ?

コンビニの前で話していた親子の会話の内容が気になってしまった。根拠なんて全く無いけれど、その「犬」というのが、どうしてもドンヘの事に思えて仕方無かった。普段だったら、絶対に知らない人に自分から話し掛けるタイプでは無いヒョクだけれど、気が付くと身体が自然と動いて、その親子に話し掛けていたんだ。

「あのっ‥‥‥」

知らない男性から突然話し掛けられたら、誰もが警戒心を露わにするだろう。その親子だって例外ではない。だからヒョクは、出来るだけ怪しまれないように、言葉を選んで説明をする。ヒョクの一生懸命な態度を見て、母親が警戒心を解いてくれたのか、夕方に何があったのかというのを、細かく教えてくれた。
親子は事故の一部始終を見ていたらしく、特に子どものほうは、一緒に轢かれた犬に駆け寄って、頑張れって声を掛けていたらしい。

「ワンちゃん。何かを探していているみたいだったわ。辺りをキョロキョロとしていたんだけれど、急に道路に飛び出しちゃったのよ。見ていた人たちが全員で、あっ!!って叫んだけれど、あっという間に轢かれちゃって‥‥‥」

その犬は車に轢かれた後、近くに動物病院がある事を知っていた近所の人が、協力をしてみんなで運んでくれたという。犬を轢いていった車は、逃げるようにして去っていったという話だった。ヒョクは、親切な親子に動物病院を教えてもらい、すぐさま走っていった。

「本当にドンヘちゃんは運が良い子ね。てっきり野良犬か何かだと思っていたら、こんなに可愛らしい飼い主に迎えに来てもらえるなんて」

ドンヘの怪我は、幸い前足が少し当たっただけで、命に別状は無かった。でも、あと数秒早く、ドンヘが道路に飛び出していたら、身体全体が車に当たってしまって、その時は即死してもおかしくは無かったんだって。後は、事故の様子を目撃してしまった近所の人達が、直ぐに動物病院に連れてきてくれたというのも幸いしたらしい。
轢かれた場所が人通りの少ない場所や、誰も見知らぬふりをしてそのまま放置されてしまったら、どれだけ傷が浅くても弱ってしまって、死んでしまうリスクもあると言われて、ドンへの運の良さに、正直言って驚きを隠せない。

動物病院に駆け込んだ迄は良かったけれども、今日、段ボールに捨てられている子犬を見つけたってだけで、俺はドンへの飼い主でも何でもない。だから、飼い主じゃないのなら帰ってくれと動物病院で言われてしまったらどうしようかと思ったら、先生たちがものすごく親切で優しくて嬉しかった。
まだ事故に遭った犬がドンヘかどうかも解らないんですって正直に言ったら、施術が終わって、まだ麻酔が効いているけれどと言われて、診察室に案内される。すると、まるで死んでいるかのようにぐったりとしているドンへの姿を見て、慌ててヒョクは、麻酔が効いているってさっき聞いたばかりだというのに、ドンヘに向かって何度も名前を呼んでいた。

「ドンヘ!!ドンヘ!!」

ヒョクの声が、ドンヘに届く。傷を負って、痛々しい前足をピクリと動かして、ゆっくりと目を開けてくれた。そして、笑顔でワン!!と元気な声を聞かせてくれて、先生たちもホッと一安心したのか、少し緊張していた空気が一気に和らいでいく。
正直言って、俺は奇跡とかそんなものは普段信じないけれど、ドンヘの身の周りに起こった数々のキセキと、俺の目の前に突然現れた不思議な男性の事を考えると、嫌でもキセキを信じない訳にはいかないような気がした。

そう、誰かが俺とドンヘが再会出来るように、真っ暗な道に光を照らして、道を指示してくれたような。

 

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