Opening‐ドンヘ

「じゃあ、仕事に行ってくるけど、俺がいない間に外に出る時はどうしたら良いか、覚えてる?」

「うん、これを使って、鍵かけるの!」

「正解!でも、あまり遠出はしたらダメだぞ?」

ドンヘは得意げに、首に下げているネックレスを取り出すと、ヒョクの目の前に差し出してみせた。このネックレスは、ヒョクが作ってくれた合鍵だ。そのまま渡すと、絶対ドンヘは何処かに落としちゃうからって、ずっとつけてないといけないんだって、ネックレスにしてプレゼントしてくれたの。それもその筈、人間になって間もないドンヘは、まだ人間としてのルールが一切解っていない。だから、ヒョクが仕事に行っている間に、鍵を開けっ放しにしてお散歩に行っちゃって、ヒョクにものすごく怒られちゃった事があるんだ。
本当だったら、ドンヘの飼い主であるヒョクが、四六時中彼を監視する事が出来れば良いんだけれど、今の彼は自分の生活とドンヘを養わなくてはいけないという責任があるから、そんな事は言ってられない。とはいえ、人間の姿をしているドンヘに、日中は鎖をつけて家に縛りつけておくというのも、何だか可哀そうだから出来なくて、仕方なく自由にさせてあげているっていう状態なんだ。こうなったら、時間が掛かったとしても、ひとつひとつゆっくりと人間のルールを教えていかないといけないとは解っているんだけれど。
俺が休みの日は、ドンヘと一緒に散歩に行って、十分にストレス発散をさせてあげてはいる。本当だったら、ドンヘも人間の姿をしているんだし、少しくらいは恋人らしくデートっぽい事もしてみたいんだけれどさ。やっぱドンヘは元が犬だから、公園が大好きみたいで、何時もボールを持って公園!公園!!って叫ぶんだよね。

「ドンヘ、今日は何処に行く予定なの?」

「予定?うーんと、公園!!」

「うん、解った。じゃあ、俺が帰ってくるまでには部屋に戻ってるように!」

毎日ドンヘの行動パターンは同じだ。だからヒョクは、今日もドンヘが公園に行くというのは解っていても、毎日ドンヘに何処に行くのかというのを必ず聞いて、同じやりとりを繰り返している。そうする事で、ドンヘに徐々に人間としてのルールを教えていっているんだ。とはいえ、まだ幼稚園児レベルのルールだけれど、最初の内は仕方ないと割り切るしかないよね。
ヒョクは壁に掛かっている大きな時計を指差して、あの短い針が「5」を指すまでには、お部屋に戻ってくるようにって念を押すと、ドンヘは笑顔でわかった!!って返事をする。そして、ヒョクが玄関でいってきますって言うと、ニコニコと笑顔になりながら、唇をちょっと突き出して、行ってらっしゃいのキスをするのが日課だ。ちょっとの間でも、ヒョクと離れちゃうのは寂しいけれど、その代わりに毎日キスをしてくれるから、今日も頑張ってヒョクが帰ってくるのを待っている事が出来るんだ。

「いってらっしゃーい!!」

それでもドンヘは、毎日ヒョクが居なくなっちゃうのが寂しいから、出て行った後は直ぐに窓を開けて、ヒョクの背中が見えなくなるまでヒョクの名前を叫んでいる。ヒョクも最初の内は、家の前を歩いていたら、いきなり後ろから大きな声でヒョク!!って叫ばれて恥ずかしかったけれど、今では日課となっちゃって、気にならなくなってしまった。

 

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