ドンヘとヒチョル。

「あ、ヒチョルおはよ!!・・・・・・って、いたぁい!!」

「朝から大きな声を出すんじゃねーよ、バカ犬」

犬は本当に鼻が利くよな。毎日毎日、俺が公園に入ってくるのと同時に、元気よく飛びついてくるからウザったくて仕方ない。なんて事を思いつつも、実はそんなドンヘが可愛くて仕方ないヒチョルは、何となくあまのじゃくな性格が出ちゃって、つい何時も蹴り飛ばしてしまうんだ。でも、そんな風にいつも邪険に扱われても、ニコニコしているんだから、本当に天然で人を疑うってことを知らない幸せなヤツなんだろうって思う。
ヒチョルに蹴られて、体勢を崩してしまったドンヘは、思わずしりもちを着いてしまった。ちょっと痛そうな表情を見せるんだけれど、まるで遊ばれているかのように、気にしないとでもいった感じで、直ぐに笑顔を見せると、そのまま勢いよく起き上がる。でも、俺が笑顔でヒチョルの顔を見ると、何となくバツが悪そうな表情をいつもしているんだよね。だから、本心で俺の事を嫌ってないって事が解っちゃうんだもん。つまり、俺の事を好きなんじゃないかなって思うんだ!

こうやって、朝のじゃれ合いとも言える挨拶が終わった後は、ヒチョルの後について行って、公園の後ろにある山のてっぺんに登るのが最近の日課なんだ。俺の住んでいる街が一望出来るから、直ぐに気に入っちゃった。今度の休みに、ヒョクと一緒に来ようかなって思ってるんだよ。

「・・・・・・あのさ」

山の頂上に着くと、何時もは草むらに寝転がって、気持ち良さそうに日向ぼっこをしているのに、今日のヒチョルは何処か真剣な表情で、しばらく街を見下ろしていたんだ。そして、ドンヘがどうしたのかなって思った瞬間に、急に話し掛けてくるもんだから、思わず驚いちゃって、キャンって鳴いちゃった。

「ドンヘはさ、毎日毎日公園に来てるけど・・・・・・飽きないの?」

「飽きる?飽きる・・・・・・うーん・・・・・・」

ドンヘが「飽きる」の意味が解らなくて、解りやすく八の字眉毛になって悩むと、その事に気付いたヒチョルが、解りやすい表現でドンヘに解るように説明をしてくれる。こんなにも気が利いて、面倒見が良いヒチョルは、まるでドンヘのお兄ちゃんみたいだ。

「飽きるっていうのは、退屈とか暇とかそんな感じの意味だよ。解るか?」

「たいくつ?!俺、タイクツなんてしてないよ!だって、毎日ヒチョルがいるもん!!」

「な、そ、そういう意味じゃなくて・・・・・・バカ!もういい!!」

結局、俺から何を引き出したかったのかは解らなかったけれど、ドンヘが素直な気持ちをヒチョルに伝えたら、解りやすく顔を真っ赤にして、そっぽを向かれてしまった。どうしよう、このまま話し掛けてくれなくなっちゃったら、タイクツになっちゃうかもって思ったら、ヒチョルに飛びついてしまったんだけれど、やめろ!!って言われて、そのまま蹴られちゃった。

「え?今日は公園の外に出るの?!」

「そうだ、俺様がついてるから、心配しなくても大丈夫だぞ」

ヒチョルがドンヘの手をがしっと掴んで、山を下りようとすると、何時もは笑顔で手を握り返してくれるのに、今日は不安を感じているのか、解りやすく足取りが重くなっていく。しかも、俺が掴んだ手を必死に振り解こうとしている。その事に気付いたヒチョルが、さっきから何度も大丈夫だって言っているんだけれど、あまりにも必死で、こんなドンヘの姿を見たのは初めてだった。だから流石のヒチョルも、どうしたら良いのか困ってしまった。ご主人様に絶対に公園を出るなとでも言われているのだろうか、次第にドンヘの目からはポロポロと涙が零れてしまい、ヒチョルはとりあえず手を放して、ドンヘが落ち着くのを待った。

「あ、あのね、俺、あれが「5」になるまでに帰らなくちゃいけないの!!」

ドンヘが少し愚図りながら、必死に説明をしようと、公園を指差しながらヒチョルに訴える。ドンヘが指差したのは、公園の真ん中に立っている大きな時計だった。確かにドンヘは毎日、同じ時間になると笑顔で明日ね!!って言って帰っていく。なるほど、ご主人様から夕方の5時までに絶対に帰って来いって言われているんだな。ヒチョルは、取り敢えずドンヘを納得させる事さえ出来れば、公園を出ても大丈夫なんだってことが解って一安心する。そして、直ぐに頭を切り替えると、笑顔になってシャツをまくり、右腕をドンヘに見せた。つまりドンヘは、公園から離れたら時間が解らなくなる。それが不安なんだろ?

「ドンヘ、これが何だか解るか?」

「ふぇ?・・・・・・あ、ヒチョルのコレ、あれと同じだ!!」

「そうだ、これは腕時計っていって、こうやって腕に着けて時間を確認するものなんだ」

「そうなんだ。これがあれば、すごく便利だね!!」

俺だってドンヘと一緒で、流石に時間が解らないと、外に出ていて不安になる。それに、ご主人様が万が一定時で帰ってきた時に、俺が居なかったら吃驚するだろ?だから俺は人間になってから、外出をする時は必ずご主人様の時計を借りるようにしているんだ。ヒチョルはドンヘに、これで何処に居ても時間が解るし、絶対に「5」になる前に此処に戻ってくるからって念を押してドンヘに伝えると、不安そうにしていた表情がパッと明るくなった。離れていても、身近にご主人様を感じていたいという思いもあって、身に着けている時計なんだけれど、まさかこんな所で役に立つとは思わなかったな。

「ヒチョル、何処にお散歩に行くの?」

「・・・・・・内緒」

働いているご主人様の姿を見てみたい。気まぐれなヒチョルは、単純にそう思っただけ。でもそれが、思いがけない事件を引き起こしてしまうなんて、誰が想像出来ただろうか。

 

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