イヌに戻ったドンヘ。

くりくりとしたまあるい瞳は、しっかりとヒョクの姿を映し出している。でも、その瞳が潤んでいるのは、ドンヘが悲しみのあまり、心の中で泣いていたからだった。

ヒョク、ヒョク、犬になりたいって願ったのは俺なんだよ。だから、お願いだから、これ以上泣かないで!!

嗚呼、俺が今、人間の言葉を話す事が出来たら、直ぐにヒョクに伝えてあげられるのに。今の俺は、犬に戻ってしまったから、何もしてあげることが出来ない。ドンヘはただ、黙ってヒョクが泣いているのを、もどかしい気持ちで眺めている事しか出来なかった。

お前、本当に犬に変身できないのか?!

ヒチョルにそう言われた時に、俺はものすごくヒチョルの事が羨ましかったんだ。だって、ヒョクが望んだ時に、何時でも気軽に犬に戻る事が出来たら、役立たずな俺でも、ヒョクの役に立つことが出来るんじゃないかって思ったんだよ。人間として生きられるだけでも、十分に幸せなのかもしれないけれど、人間になれたのなら、今度は自由に犬にもなりたいだなんて。ヒョク、だからこれは、神様が俺に下した罰なんだよ。

「ごめん‥‥‥ごめん、ドンヘ‥‥‥俺‥‥‥」

ドンヘの前で、こんなにもみっともなく泣き崩れるなんて初めての事だ。ヒョクは一瞬でも、ドンヘが犬になればいいのに。なんて思ってしまった事を、本気で後悔していた。だって、俺が勝手にドンヘに対してやきもちを焼いて、一方的に突き放してしまったのに、全ての代償がドンヘに行ってしまうなんて。ドンヘの瞳があまりにもキレイで、ヒョクは直視する事が出来なかった。
もしかしたら、これは悪い夢なのかもしれない。だから、寝て起きたら、また何時もの通り、ドンヘが人間の姿になっていないかな。なんて、ヒョクは少しだけ現実逃避をしてみる。けれど、その可能性は限りなく0%に近くて、もしドンヘがこれから先、一生このままの姿だったらって思うと、余計に涙が止まらなくなるんだ。

「くぅ‥‥‥」

擦れて消え入りそうなドンヘの鳴き声を聞いた瞬間、ヒョクは泣いている場合じゃないって思い直す事が出来た。そうだ、俺のせいでドンヘが犬になってしまったのなら、きちんと俺が人間にしてあげなくちゃいけないんだ。

「ドンヘ‥‥‥俺が絶対に、人間に戻してあげるから。良い子で待っててね」

良い子で待ってて。それはヒョクが初めてドンヘに会った時に、ドンヘを不安にさせないようにヒョクが言った言葉だ。ヒョクが精いっぱいの笑顔を作りながら、ドンヘにそう言うと、心なしかドンヘも、少しだけ笑顔を見せてくれたような気がした。

 

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