早退。

「すみません、早退しても良いですか」

NOとは言えない気迫で上司にそれだけ伝えると、イトゥク以上に顔を青くした上司が、小さい声でOKと答える。ここ最近、仕事が忙しくて残業が当たり前になっていたから、今日くらい早退しても問題はないし、今いるメンバーで何とか仕事はまわせるだろう。会社支給の携帯電話の電源に気を付けて、繋がるようにしておくようにと伝えると、本当に申し訳ないといった表情を見せたイトゥクは、礼儀正しく一礼をしてオフィスを出ていった。

「ほら、やっぱりイトゥクさん、恋人出来たんだって」

イトゥクがいなくなった瞬間、緊張が解けたのか、オフィス内で女性たちがお得意のひそひそ話をし始める。イトゥクは当然ながら、その甘いマスクと計算をしていない心遣いが評判で、女性たちの間でも不動の人気を誇っている。実はここ最近の彼の態度や行動で、とうとう彼女が出来たのではないかって噂になっていた。

解りやすく上司が咳払いをすると、オフィス内は静かになった。

 

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