神様の親友の話。

「あーもう、遅いな、まだかな‥‥‥」

ヒチョルがどれだけ焦っても、時間が早くなることはない。ドンへの家は、家からそんなに離れている訳じゃないから、もうすぐ帰ってくるとは思うんだけれど、そわそわして、さっきからずっと時計とにらめっこをしている。急かすつもりは無いけれど、イトゥクに電話した方が良いのか、そんな事を思っていると、

「ヒチョル、大丈夫でしたか?」

「うわああっ!!」

突然目の前にキュヒョンが現れて、ヒチョルは驚きのあまりその場で尻餅をついてしまった。あまりにも派手にこけてしまったもんだから、ドン。と大きな音が響き渡る。その様子を見て、キュヒョンは良かった。そんな可愛らしいリアクションを取れるのなら、大丈夫ですね。とイヤな笑顔を見せながら微笑む。ヒチョルはその、絶対に心配していないというのが伝わってくる、イヤな笑顔を見て、本当に神様なのかどうか疑いの眼差しを向ける。キュヒョンはヒチョルと目が合うと、今度は我慢できなかったのか、大きな声をあげて笑い出した。

「嗚呼もう‥‥‥あなたみたいな子を人間にして、本当に良かった」

「は?」

「だって、非常にからかいがいがありますから」

ニヤニヤとした笑顔を見ていると、本当はコイツ、神様とか言ってるけど、悪魔なんじゃないかって思えてくる。「悪魔」、ヒチョルがその単語を想像した瞬間、変な空間から無理やり戻された事を思い出して、また背筋がゾッとなってしまった。邪魔しないでくれる?なんて、魂までも凍り付いてしまう様な冷たい声で耳元で囁かれて、本当に怖かった。でも、何で悪魔がドンヘを拘束しているんだろう。ドンへが何か悪魔に目を付けられるような悪いことをしている姿なんて、全然想像出来ないし。

「なぁ、俺を無理やり空間から引き離したヤツ。アイツがドンヘを拘束してるんだろ?」

「その通りです。良かった、少しは頭の回転が良いみたいですね」

「な、なんだと!!」

見た目が俺より若く見えるから余計に、何だか子ども扱いされるのがムカついてしまう。感情が抑えられなくて、ついヒチョルは、相手が神様だってことを忘れて、思い切り襲い掛かってしまった。キュヒョンがかわそうとして、身体を横にずらすと、その瞬間、ソファに足をぶつけてしまい、ヒチョルと一緒にソファに倒れ込んでしまった。幸い床じゃなかったから、キュヒョンもケガはしていないけれど。
バランスを崩したヒチョルは、キュヒョンの胸に身体をすべて預ける形で倒れ込んでしまったから、まるで別の意味で襲っているようにしか見えない。キュヒョンの心臓の音が近くて、トクトクと聞こえてくるから、一気に我に返る。ヒチョルが直ぐに起きなきゃって思い直して、両手に力を籠めようとした瞬間、キュヒョンが反撃だと言わんばかりに、思い切りヒチョルを抱き締めた。

「な、わ‥‥‥は、離せって!!」

「離す?襲ってきたのはどっちですか?」

「いや、だから、それはっ‥‥‥って、お前、わざと倒れただろ!!」

「はは、何のことですか?」

ニヤニヤとイヤな笑みを浮かべながら、キュヒョンがヒチョルの耳元で囁くから、ヒチョルの顔はどんどんと真っ赤になる。目を開けると、キュヒョンの顔が本当に近くて、つい意識をしてしまう。軟腕かと思いきや、かなり力が強くて、何をしても解けないのが悔しい。ヒチョルがバタバタともがいていると、後ろにイヤな気配を感じて、思わず固まってしまった。

 

「‥‥‥ヒチョル、何してるの?」

 

何時から見ていたのかは知らないけれど、今まで聞いたことのない、イトゥクの冷たい声が部屋に響き渡った。

背中に「悪魔」以上のイヤな空気を感じて、ヒチョルはその場から本能的に逃げ出したくなってしまう。助けを求めるつもりは一切ない。でも、ヒチョルが思わず泣きそうな表情でキュヒョンを見つめると、まるでこんな展開になるのを知っていたかのように、ニヤニヤとしているから、思わず固まってしまった。そうか、だからわざとよろけたフリをして一緒に倒れたのか。目の前にいる神‥‥否、悪魔は、俺のことを手のひらの上で転がすようにして、弄んでいたという訳だ。
とはいえ、流石にイトゥクに不審がられたままだと、キュヒョンも先の説明をしにくいと感じるのは当然の事で。ヒチョルを振り払って起き上がると、きちんと挨拶をして、自分の事をしっかりと説明する。その説明の上手さと調子の良さに、ヒチョルは驚いてしまった。

「突然目の前に現れてしまったので、ヒチョルに泥棒だと思われて、襲われただけです。本当に彼はご主人様想いの、イイ子ですね」

って最後に作り笑顔で、「イイ子」なんて俺を褒めちぎるもんだから、ヒチョルも何を言ってやがるんだって思うんだけど、不思議なことに、キュヒョンの言葉でイトゥクの機嫌もあっという間に直ってしまったんだ。しかも、頭を下げてごめんね。って謝られると、ヒチョルは、何とも言えない複雑な気持ちになる。

「あの、ドンヘは‥‥‥戻ってくるんですか?」

傍で3人のやり取りを見ていたヒョクが、恐る恐るキュヒョンに確認をすると、キュヒョンは真っ直ぐにヒョクの瞳を見つめながら、笑顔で答える。

「その話をする前に、俺の親友の話をしても良いですか?」

「親友‥‥‥って」

もしかして、ってヒチョルが口を挟もうとした瞬間、キュヒョンに人差し指を立てられ、まるでうるさく叫んでいる子どもを制す様に、小さい声でシーっとたしなめられてしまった。先に答えを言ったら、話が面白くないでしょ?っていうような雰囲気を醸し出されて、そんな余裕も無いんじゃないかって素直に思うんだけれど。
でも、この話を聞けば、何でドンへが悪魔に捕まっているのかっていうのが解るのなら。ヒチョルは口にチャックをするように、ぎゅって力を込めると、またキュヒョンに笑われてしまって、今度はイトゥクもいるから何だか恥ずかしくなってしまった。

 

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